屋上庭園

ハンドメイドと日々のこと

【読書記録】自転しながら公転する

新年一冊目は山本文緒さんの自転しながら公転する、を読みました。

 

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山本さんの最後の長編と聞いて読んだ久しぶりの現代ものの恋愛小説は、面白いけど苦い思い出も蘇る一作でした。

 

 

あらすじ

 

 

母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。

 

あたたかな共感…ではなかったかな…。

私は共感しすぎてとにかく苦しかった。

 

 

主人公は母親の病気で退職し、今は非正規雇用

好きではない服を生活のために売ってる。

母親が心配で実家暮らししてるけど本当はその状況が少し疎ましい。

そんな風に思ってしまう事が後ろめたく自分は冷酷な人間だと思ってる。

友達が人生の方向性を決めてるのに自分はこれから先どうしていいかわからない。

ある日出会った男性と付き合うが結婚話が出ずやきもき。

 

わあ、丸々30代の私... ?

 

ここから自分語り

 

私が30代の時、リーマンショックで会社をクビになった。

ブラック企業勤めだったから辞めたいと思ってたけど突然の失業。

全く未経験の職種に派遣社員で潜り込んだ。

 

その頃、母が更年期と長年に渡る父親との不仲から情緒不安定に。

まるで親子が逆転したみたいに当たられ、泣かれ、突然普段通り優しくなる母に翻弄された。

父は今まで通り自由に暮らしていたので関係は悪化する一方で、夜中に喧嘩の延長でつかみ合いになる事も…

いつか警察沙汰を起こすのではと毎日怯えてたあの数年間を思い出すといつも真っ暗な部屋が目に浮かぶ。

 

 

状況を好転させたくて色々な所へ相談したり、一緒に家を出ようと母を誘ってみたけど本人にその気がないのでどうにもならなくて結局家を出ることも出来ず実家暮らし。

 

 

その頃付き合い始めた彼氏(今の夫)と結婚して円満に家を出ることだけが望みになったけど、なかなかそれも叶わず。

毎日家に帰るのが苦痛だった。

 

 

親も人間で、完璧ではないんだとようやく理解したのがその頃。

 

 

自分語り終わり。暗い。

 

 

本題に戻って…

 

自転しながら公転するの主人公が父親に詰られたり、周りから責められるたびに私にはわかるよ!と思った。

色々考えた末に思考停止してしまうその感じ…。

 

「家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用なこと私にはできそうもない。でも世の中の、たとえば子供いる人なんかは、みんなそうしてるわけでしょ。ジャグリングっていうの、あのボウリングのピンみたいなの、四本も五本も一斉に回してるみたいな生活を毎日してるんでしょ。なのに私、これしきのことで、なんか頭ぐるぐるしちゃって」

 

彼のこの言葉が素敵だと思った。

 

「そうか、自転しながら公転してるんだな」

「俺たちは同じ軌道には一瞬も戻れない」

「すごいスピードで自転しながら宇宙の果てに向かってるんだ」

 

よく頭がぐるぐるしがちで、そういう自分を情けなく思っているんだけどこの言葉を読んで妙に納得。

一人でぐるぐる悩みながら世間の時間に流されてるんだと。

 

 

この彼氏がまた読んでいてとても苦い気持ちになる人だった。

 

 

世間的には『条件が悪い』。(主人公が友達に言われる) そんな自分を自覚してる。

でもボランティアしてたり、親思いで優しくてきっと何かあっても最後までそばにいてくれるような人。

不器用なのかな…でももっと違う生き方あったのでは?と思わせる。

 

 

先日自転車屋さんの高橋くんという漫画を読んだのですが、高橋くんを彷彿とさせます。

 

母親の苦しみ

 

そして主人公の母の気持ちも40代の自分にはわかるように…。

更年期障害からくる鬱の彼女のこの言葉は後で役に立つかもとまずメモした。

 

「価値観が変にぐらついてきたのは、体調を崩してからだ。 若いときに作った土台がひとつひとつ腐って、バランスを崩してゆく。 だったら慌てちゃだめだ。 」

「もがいて沈むのではなく、体の力を抜いて浮かばなければ。」

 

作者は鬱を患っていたそうで、この言葉は体験から来ているのかもしれないと思った。

 

とても明るい友達の存在に感謝しつつも少し疎ましく思っていて『会ったばかりは疲れる、しばらくすると慣れてくる』とあったのもわかりすぎて…

 

私も一番辛かったとき、よく弟と『明るい人を見ると辛い』と話していた。幸せに育ったのかな、薄暗い自分とは違うなと思って一線引いてしまっていた。

 

でも今は違う。

明るいからといって辛い事がない訳では無く、それを乗り越えた強さが明るさになっている事もある。色々あるけど清濁併せ呑んで生きてたりする。

 

同じ辛さを分かち合えることは心の傷を癒やす為にとても助けになるけど、育ちが良く明るい人には特有の清らかな光のようなものがあって、それに救われる事が多い。

 

プロローグとエピローグ

 

最後まで読んで、 エピローグはいらないかな…と思ったけどプロローグとエピローグは後で追加されたもので、やはり賛否両論だったらしい。

 

ただ読み進めながらザラザラした気持ちになりつつも続きが気になって途中でやめられなかったのはプロローグのおかげだった。

完っ全にミスリードされました。

山本文緒さんを最初に知ったのは恋愛中毒をミステリファンの方が勧めてたからなのですが、この本もちょっとしたからくりがあります。

 

 

周りの目

 

ここからはネタバレあり

 

 

 

全編通して、とても苦い気持ちになったのがここ。

30代アパレル販売の主人公はとにかく見た目の事で周りから揶揄されます。

少ししつこい位で気になった。

 

 

美人ではないけど可愛らしい

可愛いけど年

思ったより年だった

胸が大きいだけ

見た目ばかり

 

 

母親にも、挙げ句の果てに娘にも言われる…。

最後にボランティアに行くんですがダメ押しのようにそこでも言われる。

 

確かに30位の時は本当に見た目でやいやい言われたりしますよね。

世間のそういう目から解き放たれた時にふぅ…年取ると楽だな!って思いましたが。

そんなに書く…?って思う位書かれてました。

 

エピローグの言葉

 

エピローグは年を取って母親になった主人公のこの言葉で締めくくられます。

 

別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。 幸せにならなきゃって思い詰めると、 ちょっとの不幸が許せなくなる。 すこしくらい不幸でいい。 思い通りにはならないこともあるのよ。

 

ようやく結婚したものの、大黒柱として家計を支えることになった主人公。

たくましく生きて、娘には少し疎まれてる。

ほろ苦い…。

自転しながら公転しつつ人生の荒波を乗り越えてきたんだろうな。

私にはできるだろうか。できないかもしれない…。

 

今年はじめのの読書は来し方行く末を考える一冊となりました。

私は読書するときにどうしても自分を投影しながら読んでしまうので、この本はとても面白いけどちょっときつかった。

次はファンタジーにしよう…と思いました。