屋上庭園

ハンドメイドと日々のこと

イチローとレインコートを着た犬

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前置きとして私は全然野球に詳しくないしイチローさんの事も詳しくないのです。

 

 

それでも心が動かされたので備忘録として書いてみます。

 

 

イチローの引退会見

 

 

野球好きの夫が感慨深げに引退会見を見ているのを、私は刺繍をしながら横目で見ていました。

たぶん数々の偉大な記録について語られることになるんだろうと思って聞き流してたというのが正直なところです。

 

 

しかしイチローは記録なんてものは大したことがないとキッパリ言い切りました。

以下引用。

 

去年の5月以降、ゲームに出られない状況になって。その後にチームと一緒に練習を続けてきたわけですけど、それを最後まで成し遂げられなければ、今日のこの日はなかったと思うんですよね。今まで残してきた記録はいずれ誰か抜いていくとは思うんですけど、去年の5月からシーズン最後の日まで、あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれない。ささやかな誇りを生んだ日々であったと思うんですよね。(中略)どの記録よりも自分の中では、ほんの少しだけ誇りを持てたことかなと思います。

 

 

野球が出来なくなるかもしれない状況になって、それでも毎日練習を続けた事がほんの少し誇り。

なかなか言えませんよね…。

 

 

中身スカスカなのに自分を誇る人がたくさんいる中で。

 

 

生き様というのは僕にはよくわからないですけど、生き方と考えれば、さきほどもお話しましたけれども、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。

 あくまで測りは自分の中にある。それで自分なりにその測りを使いながら、自分の限界を見ながらちょっと超えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの間にかこんな自分になっているんだという状態になって。

 だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を超えていけないと思うんですよね。一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので。地道に進むしかない。進むというか、進むだけではないですね。後退もしながら、あるときは後退しかしない時期もあると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。

 

 

よくライバルは自分、なんて言いますがイチローが言うと説得力があるなぁと…。

すぐ人と比べて落ち込むし少し努力しただけで『頑張ったなぁ』って思っちゃう私は恥ずかしくなりました。

イチローは常に自分を超えるために努力をしてきた人なんですね。

だから努力するのが当たり前の世界でスーパースターになれたんでしょうか。

 

そしてこの『自分がやると決めたことを信じてやっていく』という言葉、

引用の中にはありませんが『野球を愛することを貫いた』という言葉を聞いて先日読んだ本を思い出しました。

(またこのパターンですがすみません)

 

 

レインコートを着た犬

 

 

吉田篤弘さんの『レインコートを着た犬』は月舟町という架空の町を舞台にした連作の中の一冊です。

 

 

レインコートを着た犬 (中公文庫)

レインコートを着た犬 (中公文庫)

 

 

主人公は閑古鳥が鳴いている寂れた映画館のあるじ、の飼ってる犬ジャンゴ。

犬目線で話が進みます。

 

 

(ここからネタバレがありますのでご注意ください)

 

 

ある日、月舟町のレストラン・つむじ風食堂にライバル店が出来ます。

隣町にあるライバル店はつむじ風食堂の名物であるクロケット(コロッケ)定食を真似て繁盛しているらしい。

 

 

そこでどちらのレストランにも行ったことのない古本屋店主が頼まれて偵察に行くのです。

 

 

ライバル店のクロケット定食を食べてつむじ風食堂に現れた古本屋の親方は『なかなか旨かった』と言います。

そしてつむじ風食堂のクロケットを食べ比べた途端、無言で帰ってしまいます。

 

 

翌日現れた親方が言ったのはこんなことでした。

 

 

ひとつ決めたんだけど何が何でも死ぬまで古本屋をやってやろうと思って。

ひとつだけわかってるのは、俺はつくづく古本が好きだってこと。

その好きだって気持ちに、それはどうしてなのかなぜ好きなのか腑に落ちる理由を思いつきたかった。

だけど昨日ここで飯を食って言葉にできるものなんて大したことねぇんだなと思い知ったよ。

 

 

不安になるとつい言葉に頼りたくなるけど自分が好きなことをきっちりやってれば不安になる暇もないだろう。

俺はたぶんいつからかきっちりやってなかった。

 

 

ここのあるじは一度も手を抜かずに毎日毎日同じ飯を作ってきた。

俺は昨日はじめて食ったが初めてなのに伝わってきた。

どうしてそんなことができるのか

答えはただひとつ。

(略)

本当に好きならやめないこと。

逆に言うとやめちまうってことは気持ちがさめたってことだ。

 

この古本屋の親方の言葉を聞いて月舟町の人々は動き出します。

動き出した月舟町の人々についてはぜひレインコートを着た犬を読んでみてください。

 

 

好きなことをただ続けること

 

イチローやレインコートを着た犬(の親方)の言葉が私に刺さったのは

ハンドメイドのショップを始めて一年が過ぎ焦りがあるからだと思っています。

 

 

ショップを始める前、夫に『少なくとも2年は頑張らせてほしい』と言いました。

今年で2年。

前進は少しずつ少しずつ。

むしろ刺繍という違うことを始めて、前以上に作品を作れなくなっているし遠回りというか後退しているのかもしれないと思っていました。

 

 

ただ、焦りはあるけどとても楽しくて。

色々下手だし、他の人から見たら作品もショップ運営も多分てんでなってないけど、試行錯誤してるのも楽しい。

 

 

本業も忙しくて、家族とも色々あったり(夫とは仲良しです)病院通いもあるし…色々めちゃめちゃで全然順風満帆じゃないんですけど、ハンドメイドをしている時はすごく楽しいんです。

 

 

ただ、楽しいっていうだけでいいのかなという気持ちもありました…。

 

 

そんな中『好きなことをコツコツ続ける』ことは間違ってないんだな。と思わせてくれたんです。

ただ続けるんではなく手を抜かずきちんと続けていればいつか願った通りの自分になれるのかもしれないなと。

レインコートを着た犬を読んでそう感じたことをイチローが念押ししてくれたような…。

勝手にそう受け取っただけなんですけど。

 

 

これからも好きで楽しいと思える内は続けていこうと思います。

そうしたらきっとその先に何かが見えてくるのでしょう。